海外在住者が農地を相続することになったら?行政書士による基本解説

前回は、日本で相続が発生した場合に必要になる一般的な手続きについてお話ししました。今回は相続財産に農地があった場合、どうするべきか解説してみたいと思います。

農地は、耕作者の地位の安定と農業生産の増大を図り、食料の安定供給の確保を行うため、「農地法」という法律により、権利移動や転用の制限等が定められています。一般的に農地を権利移動する場合は、農地法の規制により、各市町村に設置されている農業委員会へ農地法の許可申請を提出して許可を受ける必要があります。許可を受けるためには、譲渡される人が農家資格を持っていること、譲受後に確実に農地として耕作を行えるかどうか等が審査されます。この許可がないと所有権移転登記をすることができません。

しかし、農地の相続については例外で、農地法の許可不要で相続による所有権移転登記をすることができます。ただし、農業委員会が相続による権利移動があったことを把握できるように、農地を相続した場合は、「農業委員会へ相続の届出」を提出することが義務付けられています。相続の届出は、相続により農地を取得した人が、「農地を相続したことを知った日から10ケ月以内」に届出をしなければいけませんので、農地を相続した場合は忘れずに届出をしてください。届出は所定の届出用紙と農地を相続したことが分かる登記事項証明書等を提出することになります。届出をしなかった場合は、10万円以下の過料に処せられることがあります。

海外在住者が農地を相続することになったら

海外にお住まいの方が日本にある農地を相続しても、農地を耕作することが困難であると思われます。そうした場合、農地の相続の届出の際に、農業委員会に農地の管理についての相談や農地の貸し借りのあっせんを行ってもらうことを頼むこともできます。相続したまま農地を放っておくと農地の荒廃が進み、周辺の農地へ被害を及ぼすことになってしまいます。

農地を耕作することができないとわかっている場合、当該農地のある市町村の農業委員会への届出の際に農地関係に詳しい行政書士に相談することをおすすめします。

農地以外に活用するには

農地を耕作することができない場合、農地を農地以外へ転用するということも考えられます。例えば、住宅用地等として売却する、賃貸物件を建てて家賃収入を得る、駐車場として賃料収入を得るといったケースがあります。ただし、相続した農地が市街化区域にある農地か、市街化調整区域にある農地かなど、立地によって転用できるかできないかは大きく異なってきます。

・市街化区域:すでに市街地になっている区域や計画的に市街地にしていく区域
・市街化調整区域:市街化を抑制すべきと線引きされた区域

農地の転用についても農地法の規制を受けており、市街化区域の農地の場合は、農地法の届出書を農業委員会に提出するだけで比較的容易に転用できるため、前述したケースの土地利用が可能となります。

一方、市街化調整区域の農地の場合は、農地の転用は許可制になります。前述したケースは一般的には許可を受けることができません。許可されるケースとしましては、市街化調整区域に長年住んでいる農家などが分家をするために転用する、市街化調整区域にある会社や工場等が駐車場や資材置場として転用する場合など、同区域に社会活動の基盤を置いている人や法人のための利用に限って転用が許可されます。ちなみに例外的に太陽光発電用地として転用許可を受けることも可能ですが、トラブルが多く最近は太陽光発電用地としての転用許可はハードルが高くなっています。

相続前から検討を

農地の相続や転用については、農地法の規制によりその他の土地の相続とは異なる手続きが発生します。相続開始の前から農地のまま耕作していくのか、転用するのかを十分に検討しておくことが重要です。

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