前回の『日本への本帰国に向けての不動産売却準備』では、準備から売却、帰国までの流れを解説しました。全体像が俯瞰できたかと思います。ここでは、売却のタイミングや帰国後に発生するコストおよび手続きについて、より有利な判断をする上で知っておきたいポイントをご説明いたします。
本帰国の前にアメリカの不動産を売却すると有利?
以下の条件を満たしていれば、アメリカでキャピタルゲイン税の控除が受けられます。
- 不動産売却前の過去5年間のうち2年間、自宅としてその物件に住んでいる事。
- 過去2年以内にこの控除の優遇を受けていない事。
- 夫婦のいずれかが亡くなった場合、その日から2年以内に不動産を売却すれば、この控除を受けることができる。
*控除額については前章をご参照ください。
日本帰国後にアメリカの不動産を売却すると・・・
- 非居住者(日本の居住者になった時点から)扱いになるためアメリカのキャピタルゲイン税の控除を使えない。
- 日本の居住者になった時点から、米国不動産の全売却益が日本で課税対象となる。
- 売却時の売却価格、売却経費等を記録しておく必要がある。
- 売却のタイミングの調整が重要。保有期間5年以上か5年以内など、保有期間によって税金に差が生じる。
- 特別控除の適用を受ける際には、光熱費等の領収書が必要。
- 日米二重課税の調整が必要。
アメリカに残す資産に関わる問題
アメリカに資産を残すと、所有者が他界した際にプロベート (裁判所の監視下で行われる遺産分割・相続手続き)の対象となります。時間と莫大な費用が掛かる為、トラスト名義にするなどの対策を検討する必要が生じます。なお、アメリカの相続税(Estate Tax:日本語で遺産税) と日本の相続税を比較すると、日本の相続税は基礎控除額が少なく、税金が発生する可能性がはるかに高まります。
また、永住権を放棄する際、一定の条件に該当する方は出国税対策も視野に入れなければなりません。日米の税および法律に精通した専門家のアドバイスを受けて総合的な判断をすることが重要です。
永住権の放棄は早めに〜帰国後にすること考えるべきこと
- 永住権の放棄のタイミングはその年の最初が良い。(累進課税であるから)
- 帰国後出来るだけ早く永住権を放棄して2重課税部分を減らす。
- アメリカに不動産を所有している方は賃貸を継続?それとも売却?かを決めておく。
- 日米での確定申告をおこなう。
- アメリカの銀行口座から日本へ送金〜タイミングも要検討
- 米国資産の相続、贈与
- 米国金融資産(証券口座、401k、 IRA等)の解約するか、それとも維持するかを判断。
日本での生活をスムーズに立ち上げるポイント
上記と並行して、新生活を立ち上げる準備を進めていかなくてはなりません。やるべきことがいっぱいですね。まずは以下の手続きに取り掛かりましょう。
- 身元保証人を決める。(賃貸契約や入院等において必要)
- いない場合は身元保証人を受けてくれる団体を探す。公証役場での契約が望ましい。
- 住民票を取得する。
- 銀行口座を開設する。
*日本は夫婦共有名義の銀行口座はない。つまり夫名義、妻名義に分かれている。
*ATMの使用は問題ないが、例えば妻が夫名義の銀行口座を解約したり、高額な預金を引き出すことはできない。 - アメリカのSS(ソーシャルセキュリティ)の受給申請、振り込み手続きを駐日米国大使館でおこなう。
*本帰国前にソーシャルセキュリティオフィスに問い合わせて、受給申請、振り込み手続きの“方法”等をある程度アメリカにいる間に調べておくことをお勧めいたします。
最後に
本帰国に関わる米国不動産の売却には、不動産エージェントの他に、複数の分野の専門家(税理士、エステートプランニング専門の弁護士)が関わってきます。
まずは本帰国が決まったら、余裕を持ってそれぞれの分野の専門家に相談をして、あなたの状況に合ったベストな方法を探し、相続、税務等の面で帰国後に慌てたり後悔しないように事前の準備を行なう事をお勧め致します。
経験豊富な不動産エージェントであれば、日米を跨ぐ税務に精通している専門家とのネットワークを持っていますので、まずは不動産エージェントに問い合わせてみるのも良いでしょう。
*免責事項:上記の内容はあくまで不動産エージェントとしてのアドバイスであり法的なアドバイスではございません。具体的な相続、税務面に関してのご質問は、専門家である税理士またはエステートプランニング専門の弁護士などにご相談される事をお勧めいたします。